いそまほ仲良し いそらたちの家に遊びに来たたまじとやすし。学校帰りに立ち寄ったのでお菓子 の用意をしていなかった。いそらとたまじとで近くのコンビにまで買出しに出かける。 「さーむーいーっっ」 北風の寒いこの季節。戻ってきたたまじは大急ぎでコタツの中にもぐりこむ。 「・・・ごめん、オレが行けばよかったな」 そう言ってやすしは後から部屋に入ってきたいそらにコタツを勧める。 「大丈夫だよ2人で、ねったまじ」 「うん、ありがと」 凍っていた体が溶けてきたのか、たまじはふにゃっと顔をほころばせる。 コートを脱ぎながら、『やすしはやさしいな』と、再認識するいそらだった が、やすしの隣で暖かそうにしてコタツで寝てしまっているまほろを見つけてため息をこぼす。 「それに比べてこいつは・・・」 やすしとのあまりの違いに情けなくなってくる。 「ふえっやすしあったかいね〜」 見ると、たまじはやすしにギュウッとしがみついている。 「うあ・・・ほんと冷えてるなー」 やすしは冷えた体を温めてやるように、たまじの体をさすってやる。 「仲良いね、2人とも」 特に深い意味は無いだろうが、目の前でクラスメートの男子に抱き合 われても困ってしまう。1人でこの状況の中にいるのは辛いので、いそらはいつまで も寝ているまほろの首すじに冷えてしまった手をピタリとつける。 「ぎゃあ!!冷たっ」 とたんにガバッと飛び起きる。すっかり目を覚ましてしまったまほろ。 「あほかっ何すんだよ!」 「なによ、人に買い出し行かせてぐーすか寝てるのが悪いんじゃない」 ふんっと、そっぽを向く。 しばらくそうやって無言でにらみ合っていたが、やすしに冷えてるん だから早くコタツに入ったほうがいいと勧められてしまう。 「・・・さっさと入って温まれよ」 ホラっと、まほろは隣を空ける。 「・・・言われなくてもそーするもの」 まほろの隣に腰掛けると、ピタッと寄り添う。それでいそらがず いぶん冷えてしまっていたことに気づいて、まほろは少し反省する。ただ、素直に謝るのは性に合わないので 「まったく素直じゃねーよな・・・」 などと、ついぶつくさ文句をたれてしまう。 「何?」 聞きとがめられて、いそらに睨まれる。 慌ててごまかす。やっぱりいそらには勝てないと、改めて思うまほろだった。 その様子を見てたまじに 「2人とも仲良しだね」 と、のんきに言われてしまう。 お菓子 保健室でくつろぐたまじ。はやてのひざの上に落ち着き、頭をはやての胸の辺りに凭せ 掛ける。たまじにとって1番の幸せな時間だった。そんな中、タイガがやってくる。 タイガはお土産にタイヤキを数個用意していて、たまじの気を引こうとする。 「おいしいー」 それは成功して、たまじはご機嫌になる。そんな様子に、タイガも顔をほころばせる。 これに気を悪くしたのははやてで、食べることに集中しているたまじを自分に向かせる。 「・・・お前、そうやって知らない奴から食い物もらってもホイホイついて行くんじゃねえぞ」 「ふえ?タイガはボク知ってるよ?」 はやての言ってることがわからず、首をかしげる。そんなたまじに頭を悩ます。 「そうじゃねえよ・・・。たまじなら誰からでもお菓子をくれたら簡単についていきそうだって言ってんだよ」 「あ!それは俺も心配!!」 珍しくタイガも意見が合致する。 「テメーが言うな」 しょっちゅうたまじに餌付けしているタイガにだけは言われたくないはやてだった。 そんな2人に心配されて、でもたまじはうれしくない。 確かに自分はまだまだ子供だと自覚はしているが、そこまで馬鹿じゃない。 「ボクだって、ちゃんと『ふんべつ』はあるんだから!」 慣れない言葉を無理に使って大人ぶる。 だがまったく2人には信用されていない。 「たとえばさ・・・」 と、タイガはたまじを試す。 「たとえば、知らない奴がいきなり声かけてきて、お菓子をいっぱい 家に用意してあるからおいでって言われたらどうする?」 「行かない!」 これにはさすがに即答する。でもタイガは安心できない。 「じゃあたまじの友達も先に来て待ってるって言われたら?」 「・・・・・・ふえ?」 「あほか!」 悩んでるたまじのおでこをはやては打つ。 「本当に待ってたって行くんじゃねえぞっ」 「い、行かないよ・・・たぶん」 返事がおぼつかない。 これじゃあますます心配になってしまう。まさか、と思いながらもタイガは最後に聞く。 「・・・なあたまじ、コイツが怪我して死にかけてるから早く来てくれって言われたらどうすんだ?」 はやてを指差して言う。 「勝手に死にかけにすんじゃねえよ」 そう凄むがそれどころじゃない。たまじはみるみる目に涙をた めて泣き出してしまう。たとえもしもの話だとしても、たまじにはショックが大 きかった。この様子ではたまじは速攻でついて行ってしまうだろう。 2人がかりでたまじをなだめながら、はやては思わずため息をついてしまうのだった。 だが、やっぱりうれしく感じられてしまう。 だからはやてはたまじを宥めるように抱き直して、頭をなでてあげる。 そうしてやっと、たまじは落ち着くことができた。 お昼寝中 お昼休み。 お腹いっぱいになったたまじは、いつものようにはやてのひざの上ですやすやと眠っていた。 午後の日の暖かさと、はやてのぬくもりでとても気持ちがいい。 だけど、ただ抱っこしているだけのはやては退屈してしまう。幸せそ うなたまじを見ていて、つい意地悪したくなる。はやてはたまじの頭の上に自分のあごを乗せ軽く体重をかける。あご置きにされて、さすがに違和感を感じてたまじは目が覚めてしまう。 「ふえー・・・なあに?」 はやてを見上げようとするが、押さえられているのでできない。徐々に体重をかけられ、苦しさにたまじははやての胸板を叩く。だが、たまじの攻撃などはやては意にも介さない。 「おーもーいーーーっ」 「たまじだけ寝てたら俺が暇だろ。相手しろよ」 ニヤニヤと楽しそうに言う。そんなはやてにたまじはすっかりご立腹だ。 『もーっしつこい!!』 「・・・ッ!」 たまじは仕返しに、はやての襟元から露出している鎖骨にカプリと甘噛みしてやる。 そんなことをされてはたまらず、はやては仰け反るようにたまじから逃げる。 だがその拍子に、支えていた足がすべり、後ろに転倒してしまう。はやては著しく 背中を強打してしまうが、なんとか頭を打たずにはすんだ。一緒に転倒してしまったたまじははやてが支えていたので怪我は無かったが、ショックで目を白黒させている。 「ふえ〜・・・び、びっくりしたぁ」 「こっちのセリフだ!アホ!!」 叱られてしまうが、納得できずたまじは膨れる。 かなたとあおい かなたは兄のヤタと2人で暮らしている。かなたの父親と母親 はともに学者で、研究のためほとんど家には帰ってこない。だが、小さい頃からそうゆう環境で育ってきたため、かなたはとくに寂しいと感じることは無かった。家にはヤタの他、ペットのリュー(鳥魚)や、チャッピー(コウモリ猫)がいるし、ヤタの友達のキクもよく遊びにくるのでうるさいぐらいだ。 リューとチャッピーはかなたの両親が作ったキメラだ。遺伝子の研究で、様々な動物の遺伝子を組み合わせては新たな生物を作り出している。ただ、このリューとチャッピーは特別みたいで、人語を理解してしゃべることができるし、喜怒哀楽といったような人間らしい感情も持っている。だからかなた達は本当 の家族のように育ってきた。かなたもそんな両親の血を受け継いでいるのか、よく部屋にこもっては独自に研究していた。 「・・・かなた部屋から出てこないねー」 心配そうにドアを見つめ続けるチャッピー。リューは興味がなさそうに適当に相槌を打つ。 「学校で何かあったのかなー。友達とけんかしちゃったとか・・・先生に怒られちゃったとか・・・」 自分で言いながらチャッピーはどんどん不安になってしまう。 「クラスでいじめられた・・・とか?」 リューは追い討ちをかける。チャッピーの不安は最高潮に達してついに泣 き出してしまい、かなたの部屋のドアにすがりつき、何度も何度も呼ぶ。ようやくかなたはドアを開けて出てくる。 「あんたたちうるさい!」 「かなたちゃーんっっ」 チャッピーはひしっとかなたの胸に飛び込む。 それを見てまたか、とリューを見やる。 「またいじめたんだろ。いい加減にしろよな」 怒られてもどこ吹く風で、リューはぷかぷかと泳いでいく。 「まったく。ほらチャッピーもいつまでも泣いてるなよ」 よしよし、と頭をなでてもらえて、ようやく泣き止む。 何してたの?と、聞かれてかなたはごまかすように視線をさまよわせ、手にしていたコップをチャッピー渡す。 「え〜と・・・ちょうどジュースでも飲もうとしてたんだけど、チャッピーにあげるよ」 「いいの?」 きょとんとかなたを見て、それから手にしたコップを見る。何味かはわからないが、薄 桃色をしていて小さな気泡が浮かんでは消えていく。香りはどことなく甘い。甘いものが大好 きなチャッピーは何の疑いもなく喜んでいただく。 「あっ!このばか!!」 それを見たリューは慌てて飛んでくる。だが間に合わず、チャッピーはごくごくと飲み干してしまう。 おいしかった、と満足そうに喉を鳴らしていて、とくに異常は無いように見えるが安 心はできない。リューはかなたを恨めしそうに睨む。 「・・・今度は何だ?」 「なんのこと?」 にっこり笑ってごまかすが、リューはだまされない。何度もかなたの実験対 象にされてきたのだ。今回チャッピーに飲ませた液体も、きっとさっきまで部屋で作っていたに違いない。 だまされまいとしてかなたを睨み続けるリューに、さすがのかなたも降参する。 「別に害は無いはずだよ。今回はいたってシンプルだからね」 なんとも疑わしい言葉に、とりあえずチャッピーの様子を窺う。 さっきまでご機嫌に喉を鳴らしていたが、リューと目が合ったとたん 瞳をトロンとさせてリューに擦り寄ってくる。なんだか身の危険を感じて後ずさる。 「・・・・・・かなた、何作ったんだ?」 「えっと、ほれ薬」 「!!」 確かにいたってシンプルだ。効能もわかりやすい。 なので、リューはダッシュで逃げる。だが、チャッピーにも翼がある。 「リューくーーーーーんっ」 目を輝かせて果てしなく追いかけていく。それをかなたは満足そうに見ている。 「実験成功!」 必死に助けを求めるリューは無視して、かなたはさっそく薬の量産に取り掛かる。 次の日、かなたは昨日作ったほれ薬を持って家を出た。出かけにリューとチャッピーの様子を窺うと、疲れ果てたリューをチャッピーは絡めとるように抱きしめて寝ていた。薬の効能を再確認して、機嫌よく学校に向かう。 「あおい、これ飲んでみなよ」 教室に入るなり目当ての人物を見つけ、早速勧める。 どんっと机に置かれた何のラベルも貼られていない容器に 入れられた液体。これは怪しすぎる。だがかなたは飲んだ後の結果しか考えていないので、その違和感に気づかない。 「・・・これ、かなたが作ったの?」 付き合いの長いあおいは当然気づく。 「そ。いいから早く飲んでよ」 「その前に飲んだらどうなるのかが気になるんだけど。これ、何?」 ほれ薬などと言ったら飲んでもらえないんじゃないかと思ったが、素直に 話す。それを聞いて、あおいは少し驚いたように目を丸くするが、呆れたようにため息をつく。 「ええと、これを飲んだらオレはかなたのことが好きになるわけだよね?」 「うん」 素直に頷くかなたに苦笑してしまう。 それをオレに言ったら意味無いだろ、と思ったがあえて言わない。 「かなたはオレに飲んでほしいの?」 「うん」 これにもかなたは素直に頷く。これでは自分はあおいが好きだと言っているようなものだ。 「・・・かまわないけど、飲んだって変わらないと思うよ」 あおいはかなたの見ている前で飲み干す。 だが、あおいの言った通り何の変化も無い様子にかなたは激しく落ち込む。 「なんで!?チャッピーには効いたのに・・・」 「別にこれが効かなかったわけじゃないよ」 そう言って、にこりと微笑みかけ、かなたが目を閉じる間もなく素早く口付 ける。若干唇に残っていたのか、初めてのキスはひどく甘く感じた。 「ほら、ドキドキするだろ?かなたはオレが好きになった」 「・・・!うわっ・・・わっ・・・」 言われて、自分がキスされたことを認識して一気に顔が赤くなる。 「あのね、オレが変わらないのは初めからかなたのことが好きだからだよ。知らなかった?」 「な・・・なんとなくは・・・そうかなって」 「なんとなく、か。まあいいけど。なら、なんでこんなもの作ったのさ 。かなたはオレが嘘で好きになっても良かったのか?・・・こーゆうやり方はずるいよ」 どことなく責める口調になる。だが、確かにあおいは怒っていた。なんだか自分の気持ちが踏 みにじられた気がしたからだ。それはかなたにも伝わってきて、かなたは俯いて視線をさまよわせる。 「ちがう、そんなんじゃなくって・・・だって、ずるいのはあおいの方だろっ」 「何でオレがずるいんだよ!」 売り言葉に買い言葉。かなたは止められない。 「ずるいじゃんかっ。いつもいつも私ばっかりあお いが好きで、振り回されてばっかりで!あおいも私と同じか、それ以上好きになってくれなきゃ嫌なんだよ!!」 言ってしまってどっと後悔が押し寄せる。これではただの我侭だ。そう思って泣きそうになってしまうかなたの手をあ おいはそっと手に取る。 「・・・オレはかなたが思ってる以上にかなたが好きなんだよ?」 いたわる様に言われてよけいに辛い。信じられない、という風に首を横 に振る。そんなかなたに苦笑してしまう。 「どうしたら信じてくれるのかな。またキスす る?それともずっと抱きしめててあげようか?」 「!!」 本気とも取れる口調にかなたはビクッと体をすくませる。 やっと目を合わしてもらえて、あおいは嬉しそうにかなたにキ スしようと顔を近づける。が、触れる前にクラスメートのまほろによって止められる。 「・・・お前らそこら辺でやめとけよ」 気がつくと、教室にはほとんどの生徒が登校 しており、かなた達の成り行きを見守っていた。 かなたはこれ以上無いというぐらい全身を真っ赤にし て教室から逃げ出してしまった。慌てていそらとこのみが追いかける。 後に残されたあおいは皆の視線を気にするでもなく、教えてくれたまほろに文句を言う。 「どうせなら、もう少し後に止めてくれた方が良かったんだけどな」 「あれ以上皆に見られてたらまずいだろ」 むしろ感謝してほしいぐらいだ、とまほろは思う。 「というより、皆に見せ付けたかったんだよ。かなたは 俺のだし、誰にも手を出してほしくないからね」 確信犯のあおいは皆に念押しするように言う。 まほろはかなたの苦労を思い、天を仰ぐのだった。 《おまけ》 あのほれ薬は普 通のジュースとマタタビを粉にして混ぜたもので、ほれ薬の効果などなく、猫科のチャッピーにだけ効いたものだ。たまじとかならひょっとして効果があるかもしれない。 |